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最高裁判所第一小法廷 昭和46年(オ)675号 判決 1974年7月22日

上告人 笠間松之助(仮名) 外六名

被上告人 笠間寅之助(仮名) 外二名

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人高林茂男、同青山義武の上告理由第二点について。

原審の確定したところによれば、訴外笠間泰造の死亡により、その長男被上告人笠間寅之助、三男上告人笠間松之助、四男上告人笠間定男、五男上告人笠間朝之助、二女上告人笠間イク並びに二男亡笠間宏行の代襲相続人である上告人笠間元輔、上告人笠間俊子及び上告人笠間喜久枝のため相続が開始したところ、昭和二八年七月ごろ、当時未成年者であつた上告人俊子及び上告人喜久枝の親権者である訴外笠間タエと右両名を除くその余の相続人らとの間に、亡泰造の遺産を全部被上告人寅之助に取得させる旨の遺産分割の協議が成立した、というのである。

以上のような事実関係のもとにおいて、原判決は、上告人俊子及び上告人喜久枝は本件遺産分割の協議により何も財産を取得しないのであるから、本件協議についてはその間で利益が相反することはなく、訴外タエが右上告人両名の親権者として両名を代理して右協議に加わつても、民法八二六条二項に違反して本件遺産分割の協議が無効となることはないものと判示している。

しかしながら、民法八二六条二項所定の利益相反行為とは、行為の客観的性質上数人の子ら相互間に利害の対立を生ずるおそれのあるものを指称するのであつて、その行為の結果現実にその子らの間に利害の対立を生ずるか否かは問わないものと解すべきであるところ、遺産分割の協議は、その行為の客観的性質上相続人相互間に利害の対立を生ずるおそれのある行為と認められるから、前記条項の適用上は、利益相反行為に該当するものといわなければならない。したがつて、共同相続人中の数人の未成年者が、相続権を有しない一人の親権者の親権に服するときは、右未成年者らのうち当該親権者によつて代理される一人の者を除くその余の未成年者については、各別に選任された特別代理人がその各人を代理して遺産分割の協議に加わることを要するのであつて、もし一人の親権者が数人の未成年者の法定代理人として代理行為をしたときは、被代理人全員につき前記条項に違反するものというべきであり、かかる代理行為によつて成立した遺産分割の協議は、被代理人全員による追認がないかぎり、無効であるといわなければならない(最高裁昭和四七年(オ)第六〇三号同四八年四月二四日第三小法廷判決・裁判集民事一〇九号一八三頁参照)。

してみると、訴外タエが上告人俊子及び上告人喜久枝両人の親権者として加わつて成立した本件遺産分割の協議は、右上告人らによる追認がないかぎり、無効と解すべきところ、その追認の事実を確定することなく右の協議を有効とした原判決には、民法八二六条二項の解釈適用を誤つた違法があり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの点において理由があるから、原判決は破棄を免れず、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのを相当とする。

よつて、その余の論点に対する判断を省略し、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 下田武三 岸盛一 岸上康夫)

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